◆小ネタ『冗談』(堅物サド×神経質なナンパ師、面倒見の良いオラオラ系)
キケロとエリックは冗談がうまい。その場に四人いれば四人笑う、七人いれば七人笑える冗談を言える。俺は人を笑わせるのが好きだが、滑りがちだ。
「えっ、何て言った?」
上手い冗談を言えるようになりたい。繰り返すとエリックは唇に拳を当てて頬を膨らませた。
「既に神級だろ」
含み笑いをしながら、キケロが茶化す。キケロ宅のキッチンに降った俺の爆弾発言は、キッチンに立っていたエリックだけじゃなく、キッチンから四歩くらいのベッドで寛いでいたキケロにも届いていた。
「何、ゴドー、面白い男になりたいの?」
「面白い男になりたい」
ぶっふぉ、と今度は盛大に噴き出して、エリックは俺をまじまじと見た。
「いや、もう、充分面白いけど!!」
「こういう面白さじゃなくて、その、……なんだ、……故意に人を笑わせたい」
「「……故意に人を笑わせたい?」」
ついに二人は声を揃えて、俺の言葉を繰り返すと、ぷるぷると震えはじめた。俺は、ひとつ咳払い。二人が落ち着くのを待った。
これくらい待てば充分だろうというところで、二人の様子を伺う。恐ろしいほど静かだった。はぁー、と溜め息をはいている。そろそろ。
「俺は、……真面目に、面白いことを言いたいんだよな」
意思表明、二人は盛大に噴き出した。
「どうしたら言えるようになるんだろうな」
首を捻ると、いよいよ二人は呼吸困難になってきて、既に言ってるから!!とエリックが叫び、キケロはベッドの柵に捕まってビクビクしはじめた。
「おまえ、コレ新手のテロだからな!!」
笑い過ぎて涙ぐんだキケロに指摘され、俺はますます首を捻る。
「なんか違うんだよな」
「何が」
「こういう笑いじゃなくて……こう、なんだ、さりげない優しさをスマートにくるむ笑い……というか、うん、……格好いい冗談っていうのか、俺は、格好いい冗談を言って、エリックをときめかせたい」
冗談が得意な二人から、本気で助言が欲しかったので恥をしのんで妄想を晒すと、いよいよ二人の笑いは止まらなくなって、そこから先は何を言っても笑いだす始末だった。