からめ

◆小ネタ 『夜の虫けら』(執着攻め×強気受け)

 

 鬼李が深夜にふと目を覚ます時、隣に寝ている永吉はたいてい、猫のように丸くなって呻いている。呻き声で目が覚めたわけではなく、直感的に意識が隣に持ってゆかれて目が覚める。昔より頻度は減ったが、永吉は時折こうして一人で苦しんでいることがある。はじめはどうにか癒してやろうと額の汗をぬぐったり、そっと抱きしめたりしていたが、永吉を苦しめているものの正体を知ってからは、それをやめた。永吉は、鬼李の優しさに苦しめられていた。

 気がついたのは、いつ頃だったか。永吉の悋気が、昔とは比べ物にならないぐらい、強くなっていて驚いたことを、永吉に伝えた時だろうか。永吉は気まずそうな顔をした。永吉は鬼李の好意を、気まぐれとしか受け取れない男になっていたのだ。鬼李がいくら優しくしても、喜ぶ代わりに機嫌がいいなと皮肉を口にする。

 だから鬼李は、こうして目の前で、丸くなって呻く永吉を、眺めることしかできなくなった。深夜の静けさに、肩を冷やされながら、丸まった永吉の骨格を、耳の穴を、髪の生え際にたまった汗を見つめ、永吉が悪夢から解放されるのを待つ。寝室の一つ隣にある永吉の部屋から、鈴虫の鳴き声が、遠慮がちにあがった。

「鬼李……」

「ん?」

「寒ぃ」

「うん」

 眠気のまざった、か細い声。やっと目を覚ました永吉の、野生めいてギラついた瞳が鬼李を見上げた。ようやく許しが出たと身を乗り出せば、永吉がこちらに腕を伸ばした。鬼李が抱きつく前、永吉が抱きついて来て、どきりとする。

「また俺は、呻いてたか?」

「呻いてた」

「うるさかったろ、ごめんな」

「起きちゃった」

 鬼李にできることは、求められた時に応じること。

 永吉は鬼李に触れられても喜ばない。触れようとしたら、そこに鬼李がいることではじめて喜ぶ。永吉は変わってしまった。

 

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