からめ

◆小ネタ『気になる股間』(八割男性×自由人)

「今月、調子どうですか?」

「おはぁぁぁ?!」

 様々な形のコピー機や、製本機械、文房具の置かれた準備室の壁際、コピー機前待機中にスマホを起動させたその時、その油断しきった耳に突如湿っぽいイイ声が注がれれば誰だって叫ぶ。

「ハンクさん……っ」

 ハンク・ルーキンという男は、べらぼうに顔がよく声が甘い。キラキラと輝く金髪に見とれているうち、いつのまにか大きな碧い目に捕まる。常に笑っているような、優しい形の目、それがこの男についているだけで、何故こうも怪しく光って見えるのか。

「あっ、……すみません、耳敏感でした?」

 おまけにこのハンクという男は、このように、しれっと性的な言い回しをしてくる。女であった過去を持つリャマは、セクハラですね、とその度に注意しているが、いつも悪びれない。自由人め。

「リャマさんは、私みたいな男は好みじゃないですか?」

「貴方が女だったら、割と好みドンピシャですよ」

 リャマは、過去女であった、といっても、第二次成長のはじまる前に男性化してしまった『転換者』である。身体は骨格から男極まりない男で、どの部位をとっても一般的な男性より逞しい。貧しい国に産まれ、兵士として生きていこうと男性になった境遇故に、女心をなかなか捨てられないでいるが、性欲は普通に女に向かう。第二次成長前に、転換してしまったから脳みそまで男性になってしまったのか。女であるリャマがそもそも女好きの女であったのか。

「逞しい背中ですね」

「あなたほどじゃないですよ」

 お互い、フィートで60以上ある長身の部類である。冗談の褒めあいに、それが事実である自覚から来る誇らしさが互いに混ざった。

「……ホントに、付いてないんですか?」

「またそれ聞きますか?いいんですよ、触っても」

「さすがにそれは、できません、……女性の陰部をまさぐるなんて」

「できないなら諦めて信じてくださいよ」

 短い栗毛をがしがしと掻いて、リャマは大きく溜め息を吐いた。何故、この男はここまで、リャマの少しだけ人と違う体をいじりに来るのか。物珍しいからなら無粋だし、リャマに興味があるというなら彼が男性である時点でお断りだ。リャマは美女か、少年が好きで男はそこまで好きじゃなかった。男性器を持たないリャマの性行為にはどうしても視覚的な満足感が必要で、乱して興奮できる相手でなければそもそも性行為が成立しない。

「どうやって、セックスするんですか?」

 ここまで、ズケズケ言われたら流石に怒ってもいいだろう。少し怖がらせてやろうか。キッ、と睨むとハンクは少しだけ驚いた顔をして、しかし次を待つ表情になると口端を上げた。

「ここにね」

 ハンクの尻たぶは、掴むと思ったより柔らかかった。リャマの中指が、くりっと慣れた動きで中心部を責めると、ハンクは動揺してリャマを押し退けようとした。しかし、背丈こそハンクが僅かに高いものの体重も筋肉量もリャマの方が格段に上である。グッとハンクの身体に貼り付くと、尻穴にめり込ませた指を更に深くまですすませて揺すり、快楽を誘った。

「……っ、何を」

「ここに色々なものを挿れさせて貰って、興奮するんですよ」

「ちょっと……、っ、指……っ」

「耳赤いね、可愛い」

「やめてください……」

「あれ?私、男もいけるかも……」

「……は?!……、……あ、やめ、……アッ……?!」

「ん?ここ?」

「や、……リャマさん!!」

「はい、なんでしょう?!」

 ハンクの声に怒りが混じったため、すぐに解放して両手を上げる。何もしませんよ、のポーズをとって安心させると、ハンクの額から汗が一粒。ハンクはそれをハンカチで拭うと、ふと、リャマの股間に目をやった。

 ぽふ、と静かに股間をタッチしてきたハンクの手は男のものにしては綺麗だった。

「えっ?!」

「ぶっフ」

 そこには、偽の男性器がきっちりと設置されている。触ってみろと煽ったのは、興味本意な人間の、こういう顔を見たいから。

「……えっ、し、下も男性でしたら、……もう、男性ですよね?!」

「偽物だよ、このちんこ」

「偽物?!」

 リャマの股間を、もはや、がっしと掴みながら、ハンクが叫ぶ。面白い。

「本物だったら、貴方の真っ赤な耳にやられて勃起しちゃってるでしょ」

 ハンクの耳に口を寄せて囁いた。すると、ハンクの肩がピクリと動いた。

「すみません、耳、敏感でした?」

 楽しくなって聞くと、ハンクは一言、セクハラですねと呟いて笑った。

 

 

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