からめ

◆小ネタ 『カンタンな方法』(マイペースな腹黒、我が道を行く堅物、天然な俺様)

 トート・マグランはいつも一人、不機嫌な強者として廊下側後ろの、真横に柱のある席を陣取って寝ていた。物音を立てる者がいると、容赦なく妖圧を掛けてくるので、休み時間には皆そそくさと教室を離れる。地下一層、ほとんどの生徒は地上にある妖怪企業に就職か、人の皮を被って人世に留学に行く。年頃はまちまちだが、学びをはじめた頃合いが同じの妖達は、一種の連帯感を持って、学校と呼ばれるその場所に通っていた。

「ねぇ」

 他クラスの知り合いに頼まれて、ハンク・ルーキンがトートに声を掛けたのは学校生活も残り一年、皆、就職活動で忙しい四年の春だった。

「寝るならどこか、もっと静かなところに行けば?」

「……ここも静かだ」

「君が静かにしてるんでしょ」

 あまりにずけずけと物を言ってくるハンクに、トートは首を傾げた。この場所でトートを恐れない者がいるとは。教師達でさえ二、三人の大妖怪を除き軒並みトートを恐れて遠巻きに眺めてくるだけであったのに。

「誰だ」

「ハンク・ルーキン、……二つ向こうの教室で文系の授業を中心に受けてる」

「俺は理系」

「聞いてない、……さっさと他所で寝て、昼休み終わっちゃう」

「……」

 妖圧を掛けて黙らそうかと思ったが、ハンクの背後に潜んだ何者かの気配もあり、やめた。ハンクも、姿の見えない何者かも、そこらの教師より厄介な部類の存在と理解できた。ハンクは明らかに悪魔だが、後ろに潜む者はどうか。ここ相模国の地下一層は悪魔の方が多数派であるが、倭全体でみれば妖怪の方が多い。妖怪だろうか。

「後ろのやつは?」

「マルクス・フィオーレ」

「妖精か」

「うん、変わってるよね、悪魔や妖怪の習うことに興味があるんだって」

「俺に恨みを持つ妖怪が、悪魔の助っ人を引き連れて来たのかと思った」

 疑いを口にすると、ハンクは微笑した。

「君は先の大戦で殺しすぎたんだ」

 ハンクはそれから、後ろの存在に目配せをし、飽きたような顔をしてトートの目の前、教室の壁に寄り掛かった。交渉役を交代するらしい。

 一つ隣にある教室の影から、フィオーレ一族特有の下がり目、マルクス・フィオーレが顔を出した。上位の存在特有の迫力で、マルクスはゆっくりと瞬きをした。

「……トート・マグラン」

「おう、確かに俺がトート・マグランだが」

「俺やハンクと、……友達になってくれないか」

「……」

 いま、なんて。

「おまえが嫌じゃなければ」

「いや、い……嫌とかそういう問題じゃ……、あっ、別に嫌ではないんだけど、その……」

 友達……、という言葉が、なぜか耳に残り、考えがまとまらない。友達……。

「えっ、なに、突然……?! マルクス正気?!」

「……わかった」

「えっ?! 貴方も何言ってるの?!」

「なってやろうじゃねぇか、おまえらと、……友達に」

「あぁ、宜しくトート」

「……おう、……マルクス」

「えっ、……えー?!」

 ハンクの目の前で握手を交わす二人に、ハンクは混乱した。しかし、それ以来トートが休憩の度に眠ることも、騒ぐものに妖圧を掛けることもなくなった。代わりに、ハンク・マルクス・トートの三人がつるんでいるところが、よく目撃されるようになったという。

 

 

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